キレイなデータで分析効率アップ!Google Sheetsで学ぶデータ前処理の基本
データ分析に関心があっても、「データがバラバラで分析どころではない」「どうやってデータをきれいにすればいいのかわからない」といった課題を感じている方は少なくありません。特に、様々なソースから集めたデータを扱うビジネスパーソン、例えばマーケティング担当者などが、このようなデータの前処理に多くの時間を費やしていることがあります。
データ分析は、単にツールを使うだけではなく、まず分析の元となる「データ」の質が非常に重要になります。質の低いデータでは、どんな高度な分析を行っても誤った結論に至ってしまう可能性があります。
この記事では、多くのビジネスパーソンにとって身近なツールであるGoogle Sheets(グーグルスプレッドシート)を使用して、データ分析の精度を高めるためのデータ前処理とデータクレンジングの基本的な手順を解説します。特別なプログラミングスキルは不要で、無料で手軽に始めることができます。
データ前処理・クレンジングとは?なぜ重要なのか
データ前処理とは、収集した生のデータを分析に適した形式に加工する一連の作業を指します。その中でも、特にデータの間違いや不整合を修正し、欠損値や重複を取り除く作業をデータクレンジングと呼びます。
なぜデータ前処理が重要なのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 分析結果の正確性向上: 不正確なデータや欠損値が含まれていると、分析結果が歪められ、誤った意思決定につながる可能性があります。前処理によりデータの質を高めることで、より信頼性の高い分析が可能になります。
- 分析効率の向上: きれいに整理されたデータは、その後の集計や可視化がスムーズに進みます。前処理を怠ると、分析の各段階でデータの修正が必要になり、非効率です。
- データの結合・比較の容易化: 複数のデータソースを統合する際、表記の不統一や形式の違いがあると結合できません。前処理でこれらの問題を解決することで、異なるデータを組み合わせて分析できるようになります。
データ前処理は、データ分析全体の工程において、データの収集・整備の段階に含まれます。分析手法を適用する前の「土台作り」と言えるでしょう。この土台がしっかりしているほど、その上に成り立つ分析は頑丈で信頼できるものになります。
Google Sheetsがデータ前処理に適している理由
Google Sheetsは、多くのビジネスシーンで広く利用されている表計算ソフトです。データ前処理のツールとして、以下のようなメリットがあります。
- 無料かつ手軽に利用可能: Googleアカウントがあれば誰でも利用でき、特別なソフトウェアのインストールは不要です。Webブラウザ上で動作するため、環境を選びません。
- 直感的な操作性: 表計算ソフトの操作に慣れている方であれば、比較的容易に扱うことができます。関数やメニューを使った作業が中心です。
- 豊富な関数と機能: テキスト操作、数値計算、データの並べ替え、フィルタリング、重複削除など、基本的なデータ前処理に必要な機能や関数が揃っています。
一方で、Google Sheetsには限界もあります。非常に大規模なデータ(数百万行以上)を扱う場合や、複雑な自動化処理、高度な統計的手法を用いたクレンジングには向いていません。しかし、一般的な業務で扱うデータ量であれば、十分に前処理のツールとして活用できます。
Google Sheetsを使ったデータ前処理の具体的なステップ
ここでは、Google Sheetsを使った基本的なデータ前処理・クレンジングのステップを具体的に解説します。画面イメージを想像しながら読み進めてください。
例として、Webサイトからダウンロードした顧客リストデータがあるとします。このデータには、重複した顧客情報、氏名の表記揺れ、住所の入力ミス、電話番号の形式不統一などが含まれていると想定します。
ステップ1:データの準備と確認
分析したいデータをGoogle Sheetsにインポートします。CSVファイルやExcelファイル形式のデータは、「ファイル」メニュー > 「インポート」から簡単に取り込むことができます。
データを取り込んだら、まずは全体を確認します。 * 列の見出し(ヘッダー)は適切か? * 各列にどのようなデータが入っているか?(数値、テキスト、日付など) * 欠損値(データが入力されていないセル)はどの程度あるか? * 重複していると思われる行はないか? * 明らかに誤入力と思われるデータはないか?
この段階でデータの全体像を把握することが重要です。
ステップ2:重複行の削除
顧客リストなど、特定の行が完全に重複している場合は、簡単に削除できます。
- データ範囲全体を選択します。
- 「データ」メニューをクリックします。
- 「データクリーンアップ」を選択します。
- 「重複を削除」を選択します。
- 重複を判断する基準となる列を選択します。(例:「顧客ID」と「氏名」など、完全に一致した場合に重複とみなしたい列)
- 「重複を削除」ボタンをクリックします。
これで、選択した列の組み合わせが完全に一致する重複行が削除されます。削除された行数も表示されます。
ステップ3:空白セル(欠損値)の処理
データが入力されていない空白セル(欠損値)は、その後の集計や計算に影響を与えることがあります。欠損値をどのように扱うかは分析目的によりますが、以下の方法で対処します。
- 特定: フィルタ機能を使うと便利です。対象の列でフィルタを作成し、「(空白)」を選択すると、その列が空白の行だけを表示できます。
- 補完: 空白セルに平均値や中央値などを手動で入力するか、簡単な関数の組み合わせで近くの値などを補完する方法があります。ただし、安易な補完は分析結果を歪める可能性があるので注意が必要です。
- 削除: 該当する行自体を削除するという方法もあります。フィルタで空白行を特定し、まとめて削除します。
ステップ4:表記揺れの統一
同じ意味なのに異なる表記になっているデータは、集計や分析を妨げます。例えば、「株式会社」が「(株)」や「KK」と入力されていたり、製品名に全角・半角、大文字・小文字の揺れがあったりする場合です。
- 検索と置換: 最も基本的な方法です。「編集」メニュー > 「検索と置換」を使用します。「検索」欄に統一したい「揺れている表記」、「置換後の文字列」に統一したい「正しい表記」を入力し、「すべて置換」をクリックします。正規表現を使ったより高度な置換も可能です。
- TRIM関数: 文字列の先頭や末尾にある不要な空白を取り除きます。
=TRIM(A1)
のように使用します。 - CLEAN関数: 印刷できない制御文字など、テキスト内の不要な文字を取り除きます。
=CLEAN(A1)
のように使用します。 - LOWER/UPPER/PROPER関数: 全て小文字にする(LOWER)、全て大文字にする(UPPER)、単語の先頭だけ大文字にする(PROPER)など、大文字・小文字の表記を統一できます。
- SUBSTITUTE関数: 特定の文字列を別の文字列に置き換えます。
=SUBSTITUTE(A1, "(株)", "株式会社")
のように使用します。複数の表記揺れがある場合は、この関数を複数組み合わせて使用することも可能です。
これらの関数を別の列に適用し、表記を統一した列を作成するのが一般的な手順です。
ステップ5:データの分割と結合
一つのセルに複数の情報が含まれている場合(例:「氏名(姓 名)」、住所が全て入力されているなど)、分析のために情報を分割する必要があることがあります。逆に、複数のセルに分かれている情報を結合したい場合もあります。
- データの分割:
- 区切り文字で分割: 「データ」メニュー > 「データの分割」を使用します。カンマ、タブ、空白などの区切り文字を指定して、一つのセル内のデータを複数の列に分割できます。
- SPLIT関数: 特定の区切り文字で文字列を分割し、結果を複数のセルに表示します。
=SPLIT(A1, " ")
は、A1セルの文字列を空白で分割します。
- データの結合:
- CONCATENATE関数(またはCONCAT関数): 複数のセルの文字列を結合します。
=CONCATENATE(A1, " ", B1)
は、A1セルとB1セルの間に空白を入れて結合します。 &
演算子: CONCATENATE関数と同様に文字列を結合できます。=A1 & " " & B1
と記述でき、よりシンプルです。
- CONCATENATE関数(またはCONCAT関数): 複数のセルの文字列を結合します。
ステップ6:データ形式の変換
日付、時刻、数値などがテキストとして認識されていると、計算や並べ替えが正しく行えません。
- 表示形式の変更: 対象のセルを選択し、「表示形式」メニューから適切な形式(数値、日付、時刻、通貨など)を選択します。多くの場合はこれで解決します。
- TEXT関数: 数値を特定の形式のテキストに変換します。
=TEXT(A1, "yyyy/mm/dd")
は、A1セルの日付データを「年/月/日」形式のテキストに変換します。逆に、テキスト形式の日付などを日付形式に変換するには、DATEVALUE関数などを使用します。
ステップ7:処理後の確認
前処理が完了したら、再度データを全体的に確認し、意図した通りにデータが整理されているかチェックします。フィルタ機能や並べ替え機能を使って、特定の条件のデータを確認すると効率的です。
ビジネスシーンでの具体例
これらの前処理ステップは、様々なビジネスシーンで役立ちます。
- マーケティング: 顧客リストの統合(異なるキャンペーンで獲得したリストの重複削除、表記揺れ統一)、Webサイトのアクセスログの前処理(不要なパラメータの削除、URLの正規化)、アンケート回答の自由記述欄の整理。
- 営業: 営業リストの重複削除、顧客情報の表記統一、売上データの製品名・担当者名の表記統一。
- 人事: 従業員リストの重複確認、所属部署名の表記統一、資格取得データの形式整理。
データ分析を行う前にこれらの前処理をしっかりと行うことで、その後の集計(例:顧客数の正確な把握、特定の製品の売上集計)や可視化(例:地域別の顧客分布マップ、売上推移グラフ)の精度が格段に向上し、より信頼性の高い分析結果に基づいた意思決定が可能になります。
よくある疑問や注意点
- 元データは必ずバックアップする: 前処理の過程で誤ってデータを書き換えてしまうリスクがあります。作業を開始する前に、元のデータファイルをコピーしておくか、Google Sheetsのバージョン履歴機能を活用して、いつでも元の状態に戻せるようにしておくことが非常に重要です。
- 処理手順を記録する: どのような前処理を、なぜ行ったのかを記録しておきましょう。これにより、後から手順を再現したり、他の人に説明したりする際に役立ちます。また、同じ種類のデータを扱う際に効率化できます。
- 複雑な前処理: Google Sheetsの関数や機能だけでは対応が難しい複雑な前処理もあります。その場合は、より強力なツール(例: Pythonとpandasライブラリなど)の利用を検討する必要が出てくるかもしれません。しかし、まずはSheetsでできることから始めるのが良いでしょう。
- データの意味を理解する: 単に形式を整えるだけでなく、各データが何を意味しているのかを理解しておくことが、適切な前処理を行う上で不可欠です。
結論
データ分析は、高度なツールや統計知識がないとできないと思われがちですが、その第一歩は「データをきれいにすること」にあります。そして、そのための基本的な作業の多くは、普段使い慣れているGoogle Sheetsで十分に行うことが可能です。
この記事で紹介した重複削除、欠損値処理、表記揺れ統一、データの分割・結合といった基本的な前処理のステップを実践することで、お手元のデータを分析可能な状態に整えることができます。
きれいなデータは、その後の集計や可視化といった分析作業の効率を高めるだけでなく、分析結果の信頼性を向上させ、より的確な意思決定につながります。まずは身近なGoogle Sheetsを使って、データの整理に取り組んでみてはいかがでしょうか。ここから、データに基づいたビジネス改善の道が拓けるはずです。