無料Google Sheetsで実践!顧客満足度(CSAT)・NPS分析入門
お客様の声は、製品やサービスの改善、顧客ロイヤルティの向上に欠かせない情報源です。しかし、アンケートやフィードバックを集めても、どのように分析し、ビジネスの意思決定に活かせば良いのか分からない、という方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、特別なデータ分析ツールを導入することなく、普段使い慣れている方も多い無料のGoogle Sheets(グーグルスプレッドシート)を使って、顧客満足度(CSAT)やNPS(ネットプロモータースコア)といった重要な指標を分析する基本的な方法を解説します。具体的な計算方法や、ビジネス改善に繋げるためのデータ活用のヒントをご紹介します。
顧客満足度(CSAT)とNPSとは
まずは、顧客満足度(CSAT)とNPSがどのような指標かをご説明します。これらは、顧客が製品やサービスに対してどのように感じているかを数値化し、定点観測や改善活動の効果測定に用いられます。
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顧客満足度(CSAT: Customer Satisfaction Score): これは、「当社の製品/サービスにどの程度満足していますか?」といった質問に対し、「非常に満足」「満足」「普通」「不満」「非常に不満」などの選択肢から回答を得て算出される指標です。一般的には、「満足」または「非常に満足」と回答した顧客の割合で計算されることが多いです。製品やサービスの利用直後の満足度を測るのに適しています。
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NPS(ネットプロモータースコア: Net Promoter Score): これは、「この製品/サービスを友人や同僚に勧める可能性は、0~10点のスケールでどのくらいですか?」という質問への回答に基づいて算出される指標です。回答者はその点数によって以下の3つのグループに分類されます。
- 推奨者 (Promoters): 9点または10点をつけた顧客。リピート購入や口コミで貢献する可能性が高い顧客です。
- 中立者 (Passives): 7点または8点をつけた顧客。満足しているかもしれませんが、競合に乗り換える可能性もあります。
- 批判者 (Detractors): 0点から6点をつけた顧客。不満を持っており、否定的な口コミを広める可能性があります。 NPSは、「推奨者の割合」から「批判者の割合」を引いて算出されます。顧客ロイヤルティ、つまり顧客が今後もサービスを利用し続け、他者に推奨するかどうかを測る指標として注目されています。
これらの指標を定期的に測定・分析することで、顧客がどこに満足し、どこに不満を感じているのかを把握し、具体的な改善策の検討に繋げることができます。
Google SheetsでCSAT・NPSデータを準備する
アンケートツール(Google Formsなど)や外部サービスから得られた顧客の回答データをGoogle Sheetsに取り込みます。CSVファイルとしてエクスポートし、Sheetsにインポートするか、直接連携機能を利用します。
データは、各行が1件の回答、各列が質問への回答や回答者情報(購入日、顧客属性など)となるように整理します。最低限、CSATの満足度レベル、またはNPSの推奨意向度(0-10点)が入力されている列が必要です。
例えば、以下のような形式でデータが準備されていると仮定します。
| 回答ID | 顧客属性(例:年代) | サービス利用頻度 | CSAT(満足度) | NPS(推奨度 0-10) | 自由記述 | | :----- | :----------------- | :--------------- | :------------- | :----------------- | :------- | | 1 | 30代 | 週に1回 | 非常に満足 | 10 | 〇〇が良かった | | 2 | 40代 | 月に数回 | 普通 | 7 | 特にない | | 3 | 20代 | 初めて | 不満 | 3 | 〇〇に問題があった | | 4 | 30代 | 週に数回 | 満足 | 9 | △△が改善されると良い | | ... | ... | ... | ... | ... | ... |
Google SheetsでCSATを計算・分析する
CSATは「満足」または「非常に満足」と回答した顧客の割合として計算するのが一般的です。ここでは、CSATの回答が「非常に満足」「満足」「普通」「不満」「非常に不満」の5段階であると仮定します。
1. 全体のCSATスコアを計算する
データがSheet1のA1からF列に入力されており、CSAT回答がD列にあるとします。全体のCSATスコアを計算するには、まず「満足」「非常に満足」の回答数を数え、それを全体の回答数で割ります。
- 「非常に満足」の数を数える:
=COUNTIF(D:D, "非常に満足")
- 「満足」の数を数える:
=COUNTIF(D:D, "満足")
- 全体の回答数を数える:
=COUNTA(D:D)
(ヘッダー行を除く場合、COUNTA関数の範囲を調整するか、COUNTAから1を引きます)
CSATスコアの計算式は以下のようになります。
=(COUNTIF(D:D, "非常に満足") + COUNTIF(D:D, "満足")) / (COUNTA(D:D) - 1)
※ ヘッダー行を考慮し、COUNTA
の結果から1を引いています。データ範囲に合わせて調整してください。
この計算結果に100を掛ければパーセント表示になります。Google Sheetsでセルを選択し、書式を「パーセント」に設定することもできます。
2. 属性別のCSATを比較する
顧客属性(年代、サービス利用頻度など)ごとにCSATを比較することで、どのような顧客層の満足度が高い/低いかを把握できます。これには COUNTIFS
関数が便利です。例えば、「30代」の顧客のCSATを知りたい場合(顧客属性がB列にあると仮定)、
- 「30代」かつ「非常に満足」の数を数える:
=COUNTIFS(B:B, "30代", D:D, "非常に満足")
- 「30代」かつ「満足」の数を数える:
=COUNTIFS(B:B, "30代", D:D, "満足")
- 「30代」の回答数を数える:
=COUNTIF(B:B, "30代")
「30代」のCSATスコアは以下の計算式で求められます。
=(COUNTIFS(B:B, "30代", D:D, "非常に満足") + COUNTIFS(B:B, "30代", D:D, "満足")) / COUNTIF(B:B, "30代")
この要領で、様々な属性やその分類(例:年代なら「20代」「30代」など、利用頻度なら「週に1回」「月に数回」など)ごとにCSATを計算し、比較表を作成します。
3. 時系列でのCSAT推移を分析する
アンケートを定期的に実施している場合は、CSATスコアの推移を追うことで、改善活動の効果や、サービス全体の満足度の変化を把握できます。アンケート実施日や回答日を示す列がある場合、その日付や月ごとにデータを集計します。
これには、ピボットテーブル機能が非常に有効です。 * 「データ」メニューから「ピボットテーブル」を選択します。 * 「行」に「回答日(またはアンケート実施日)」の列を追加します。日付のグループ化機能を使って「月」ごとに表示すると推移が見やすくなります。 * 「列」に「CSAT(満足度)」の列を追加します。 * 「値」に「回答ID」などの数を数える列を追加します。集計方法は「データの個数」にします。 * これにより、各月・各満足度レベルの回答数が集計されます。この集計結果を使って、各月のCSATスコアを計算します。
Google SheetsでNPSを計算・分析する
NPSは0~10点の推奨意向度に基づいて、「推奨者」「中立者」「批判者」に分類し、推奨者と批判者の割合から計算します。推奨意向度がE列にあると仮定します。
1. 回答者を3つのグループに分類する
まず、各回答者がどのグループに属するかを識別できるようにします。新しい列(例:G列)を作成し、以下の IF
関数と AND
関数を組み合わせた式を入力します。
G2セルに =IF(E2>=9, "推奨者", IF(E2>=7, "中立者", IF(E2>=0, "批判者", "")))
と入力し、下方向にコピーします。
* E2>=9
なら「推奨者」
* E2>=7
(かつE2<9)なら「中立者」
* E2>=0
(かつE2<7)なら「批判者」
* それ以外(空欄など)なら空欄 "" となります。
2. 各グループの人数を数える
COUNTIF
関数を使って、各グループに属する回答者の数を数えます。分類結果がG列にあるとします。
- 推奨者の数:
=COUNTIF(G:G, "推奨者")
- 中立者の数:
=COUNTIF(G:G, "中立者")
- 批判者の数:
=COUNTIF(G:G, "批判者")
- 全体の回答数:
=COUNTA(E:E) - 1
(ヘッダー行を除く)
3. NPSスコアを計算する
NPSは(推奨者の割合 - 批判者の割合)× 100 で計算されます。
NPSスコア: =((COUNTIF(G:G, "推奨者") / (COUNTA(E:E) - 1)) - (COUNTIF(G:G, "批判者") / (COUNTA(E:E) - 1))) * 100
小数点以下の表示桁数を調整して、整数で表示するのが一般的です。
4. 属性別、時系列での分析
CSATと同様に、COUNTIFS
関数やピボットテーブルを使って、属性別や時系列での推奨者、中立者、批判者の割合、そしてNPSスコアを計算・比較することで、より詳細な傾向を把握できます。ピボットテーブルを使う場合は、「行」に属性または日付(月)、「列」に分類結果(G列)、「値」に回答数の設定をします。
顧客の声(自由記述)を分析に活かす
CSATやNPSといった定量的なスコアだけでなく、同時に収集した自由記述の回答は、スコアの背後にある理由や具体的な改善点を知る上で非常に重要です。
Google Sheetsでは、FILTER
関数やフィルタ機能を使って、特定のスコア(例:批判者、推奨者)をつけた顧客の自由記述だけを抽出して読むことができます。
例えば、NPSで「批判者」と分類された顧客の自由記述(F列)を抽出したい場合、分類結果(G列)が「批判者」である行をフィルタリングします。
=FILTER(F:F, G:G = "批判者")
批判者の自由記述を丁寧に読むことで、製品・サービスの具体的な課題を特定し、改善の優先順位をつけるのに役立ちます。推奨者の自由記述からは、サービスの強みや、さらに伸ばすべき点が明らかになります。
より高度なテキスト分析(単語の出現頻度、感情分析など)を行いたい場合は、Google ColaboratoryとPythonを組み合わせる方法もありますが、まずはSheetsのフィルタリング機能だけでも多くの気づきが得られます。
分析結果の可視化
計算したCSATやNPSのスコア、属性別の比較、時系列推移などは、グラフを使って可視化することで、傾向や変化が一目で分かりやすくなります。Google Sheetsのグラフ機能は、これらの可視化に十分活用できます。
- 棒グラフ: 属性別のCSAT/NPS比較、各グループ(推奨者、中立者、批判者)の割合比較に適しています。
- 折れ線グラフ: CSAT/NPSスコアの時系列推移を追うのに最適です。
- 円グラフ: 全体の回答者における各グループの割合を示すのに使えます(ただし、円グラフは要素が多いと見づらくなる点に注意が必要です)。
作成したグラフは、レポートに貼り付けたり、他のメンバーと共有したりして、議論の材料にすることができます。
無料ツールでCSAT/NPS分析を行うメリット・デメリット
メリット:
- コストがかからない: Google Sheetsは無料で利用でき、追加ツールの購入費用が発生しません。
- 手軽に始められる: 普段使い慣れている表計算ソフトの操作感で分析できます。
- データ連携が容易: Google Formsからの回答データはSheetsに直接連携できます。他のアンケートツールやシステムからのデータもCSVなどで簡単に入出力できます。
- 共有・共同作業がしやすい: チームメンバーと簡単にデータを共有し、リアルタイムで共同作業ができます。
デメリット:
- 大量データの処理に限界: 回答数が数千件、数万件と非常に多くなると、処理が重くなったり、動作が不安定になったりする可能性があります。
- 複雑な分析手法には不向き: 多変数解析や機械学習など、統計的に高度な分析を行うには限界があります。
- 自動化や定型作業には工夫が必要: GAS(Google Apps Script)を使えば自動化も可能ですが、ある程度の技術的な知識が必要になります。
まとめ
この記事では、無料のGoogle Sheetsを使って、顧客満足度(CSAT)とNPSのデータを集計・分析する基本的な手順を解説しました。CSATやNPSは、顧客の感情を数値化し、製品やサービスの評価、そして顧客ロイヤルティを測るための重要な指標です。
今回ご紹介した COUNTIF
、COUNTIFS
、COUNTA
、FILTER
関数やピボットテーブルといったGoogle Sheetsの基本機能だけでも、全体のスコア算出、属性別比較、時系列分析、そして自由記述回答のフィルタリングといった、ビジネス改善に直結する分析を行うことが可能です。
無料ツールでデータ分析の第一歩を踏み出し、顧客の声に基づいた意思決定を行うことで、製品やサービスの改善、顧客満足度の向上、ひいては事業成長に繋げることができるでしょう。まずは手元にある顧客データをGoogle Sheetsに集約し、CSATやNPSの計算から始めてみてはいかがでしょうか。分析を進める中でより高度な手法やツールが必要になった際には、他の無料ツールやステップアップについても検討していくことができます。