顧客データ分析を無料Google Sheetsで!RFM分析で「売上を伸ばす顧客」を見つける方法
はじめに
ビジネスにおいて、顧客データを活用することは売上向上や顧客満足度向上に不可欠です。しかし、「顧客データは蓄積しているものの、具体的にどう活用すれば良いかわからない」「高価な分析ツールを導入する予算はない」といった課題をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
データに基づいた顧客理解は、効果的なマーケティング施策や営業戦略の立案に繋がります。この記事では、普段から使い慣れている方も多い無料ツール「Google Sheets」を使って、顧客分析の代表的な手法の一つであるRFM分析を行う具体的な方法をご紹介します。この記事を読むことで、手元にある顧客データから「どのような顧客が優良顧客なのか」「どの顧客層にどのようなアプローチをすべきか」といった洞察を得て、ビジネスの成果に繋げる第一歩を踏み出すことができるでしょう。
RFM分析とは
RFM分析は、顧客の購買履歴データに基づいて顧客を3つの指標で評価し、セグメント分けを行う分析手法です。この手法は、特にリピート購入のあるビジネス(ECサイト、店舗、サービス業など)でよく用いられます。
分析に使用する3つの指標は以下の通りです。
- R (Recency - 最新購入日): 顧客が最後に商品やサービスを購入したのがいつかを示します。最近購入した顧客ほど、現在も活動的で、再度購入する可能性が高いと考えられます。
- F (Frequency - 購入頻度): 顧客が特定の期間内(例: 過去1年間)にどれだけ頻繁に購入したかを示します。購入頻度が高い顧客ほど、その商品やサービスへのロイヤルティが高いと考えられます。
- M (Monetary - 購入金額): 顧客が特定の期間内に合計でどれだけの金額を購入したかを示します。購入金額が大きい顧客ほど、ビジネスにとって貢献度が高いと考えられます。
これらの3つの指標を組み合わせることで、顧客を「優良顧客」「一般顧客」「離反しそうな顧客」といったいくつかのグループ(セグメント)に分類し、それぞれのセグメントに対して最適なアプローチを検討することが可能になります。例えば、最新購入日が古く、購入頻度も金額も低い顧客には、離反防止のための特別なオファーを出す、といった施策が考えられます。
なぜGoogle SheetsでRFM分析を行うのか
Google Sheetsは、インターネット環境とGoogleアカウントがあれば誰でも無料で利用できる表計算ソフトです。多くのビジネスパーソンにとって馴染みがあり、特別なソフトウェアのインストールや専門的なプログラミング知識は不要です。
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メリット:
- 無料・手軽: コストをかけずにすぐに始められます。
- 操作性の高さ: 表計算ソフトとして基本的な操作に慣れていれば比較的容易に扱えます。
- 共同編集: 複数人で同時にデータを閲覧・編集できます。
- 他のGoogleツールとの連携: GoogleフォームやGoogle Analyticsなど他のツールからエクスポートしたデータを簡単に取り込めます。
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デメリット:
- データ量に限界: 非常に大量(数十万行以上)のデータ分析には向きません。処理速度が遅くなる可能性があります。
- 高度な分析には不向き: 統計モデルの構築など、複雑な分析には専門ツールが必要です。
- リアルタイム性: 常に最新のデータを自動で取り込んで分析する仕組みを作るには、別途仕組み(Apps Scriptなど)が必要になる場合があります。
小規模から中規模のデータ量であれば、Google SheetsはRFM分析を始めるための非常に有効なツールと言えます。
Google SheetsでのRFM分析 手順
ここでは、Google SheetsでRFM分析を行う具体的な手順を説明します。例として、以下のような購買履歴データ(顧客ID、購入日、購入金額)があることを想定します。
| 顧客ID | 購入日 | 購入金額 | | :----- | :--------- | :------- | | A001 | 2023/11/15 | 3000 | | A002 | 2023/10/01 | 5000 | | A001 | 2024/01/20 | 4500 | | A003 | 2024/02/10 | 8000 | | A002 | 2024/03/05 | 6000 | | A001 | 2024/04/18 | 3500 | | ... | ... | ... |
ステップ1:分析に必要なデータの準備
まず、Google Sheetsに顧客の購買履歴データをインポートします。必要な列は少なくとも以下の3つです。
- 顧客を識別できる一意のID(顧客IDなど)
- 購入が発生した日付(購入日)
- その購入での金額(購入金額)
データが複数のシートに分かれている場合は、一つのシートにまとめます。また、不要な列は削除し、日付形式や金額形式が統一されているか確認します。
ステップ2:RFM指標の計算
次に、各顧客のR、F、Mの値を計算します。これは、顧客IDごとに集計を行う必要があります。Google Sheetsでは、ピボットテーブルや関数を使って集計できます。ここではピボットテーブルを使った方法を説明します。
- データ範囲を選択し、「挿入」メニューから「ピボットテーブル」を選択します。
- 新しいシート、または既存のシートの任意の場所にピボットテーブルを作成します。
- ピボットテーブルエディタで、以下の設定を行います。
- 「行」に「顧客ID」を追加します。
- 「値」に以下の3つを追加します。
- 「購入日」を追加し、「集計」を「COUNTA」に変更します。これは顧客ごとの購入回数(F)になります。
- 「購入金額」を追加し、「集計」を「SUM」に変更します。これは顧客ごとの合計購入金額(M)になります。
- もう一度「購入日」を追加し、「集計」を「MAX」に変更します。これは顧客ごとの最新購入日になります。
これで、顧客IDごとの購入回数(F)、合計購入金額(M)、最新購入日(Rの元データ)の集計表ができます。
次に、最新購入日から「今日」までの日数を計算し、Rの値とします。ピボットテーブルで作成した表の横に列を追加し、例えば以下のような関数を使用します。
=TODAY()-[最新購入日のセル]
TODAY()
関数は今日の日付を返します。これにより、各顧客が最後に購入してから何日経過したかが計算できます。経過日数が少ないほどRの値は高評価となります。(経過日数が少ない=最近購入している)
ステップ3:RFMスコアの割り当て
計算したR(経過日数)、F(購入回数)、M(購入金額)の値を基に、それぞれの指標にスコアを割り当てます。一般的には、1から5までの5段階スコアがよく使われます。スコアの割り当て方にはいくつか方法がありますが、初心者の方にはデータをいくつかのグループに分割する方法がおすすめです。
例えば、R(経過日数)のスコアを割り当てる場合:
- 計算した全顧客の経過日数を小さい順に並べます。(経過日数が少ない方が高スコア)
- データを5等分(または任意等分)し、それぞれのグループにスコア5, 4, 3, 2, 1を割り当てます。例えば、経過日数が最も少ない上位20%にスコア5、次の20%にスコア4、...といった形です。
- F(購入回数)とM(購入金額)も同様に、大きい順に並べてスコアを割り当てます。(購入回数/金額が多い方が高スコア)
Google Sheetsでこれを実現するには、以下の手順が考えられます。
- R, F, Mそれぞれの列を、スコアリングしたい順(Rは昇順、FとMは降順)にソートします。
- データの総行数を確認し、各スコアの区切りとなる行番号を計算します(例: 総顧客数1000人なら、各スコアに200人ずつ割り当てる)。
-
IF
関数やVLOOKUP
関数を使って、計算したスコアの区切りを基に、各顧客のスコアを自動的に入力します。例えば、Rスコアの場合:excel =IF([経過日数のセル]<[スコア5の閾値], 5, IF([経過日数のセル]<[スコア4の閾値], 4, IF(...)))
あるいは、基準となる値を別の表に作成しておき、VLOOKUP
関数を使うと管理しやすくなります。
このスコアリング基準の設定がRFM分析の精度を左右します。ビジネスの特性や過去のデータを見ながら、適切な基準を設定してください。最初は単純な均等分割から始め、必要に応じて調整していくのが良いでしょう。
ステップ4:顧客セグメントの定義と分類
各顧客にR、F、Mのスコア(例: R=5, F=4, M=5)が割り当てられたら、これらのスコアの組み合わせによって顧客セグメントを定義します。代表的なセグメントの例としては以下の通りです。
- 優良顧客 (555, 554など): 全ての指標でスコアが高い顧客。ビジネスにとって最も価値の高い顧客層です。
- 新規優良顧客 (515, 525など): Rスコアは高いが、FやMはまだ低い顧客。最近購入したが、今後優良顧客になる可能性がある層です。
- 常連顧客 (455, 355など): Rスコアはやや低いが、FやMが高い顧客。以前はよく購入していたが、少し間が空いている層です。
- 離反注意顧客 (255, 244など): Rスコアが低く、購入から日が経っているが、FやMは比較的高い顧客。優良顧客だったが、離反し始めている可能性のある層です。
- 休眠顧客 (111など): 全ての指標でスコアが低い顧客。長期間購入がなく、離反してしまった可能性が高い層です。
これらのセグメントはあくまで一例です。ビジネスの目的や顧客行動に合わせて自由に定義してください。例えば、「Rスコアが4以上かつFスコアが4以上」を「高頻度リピーター」とするなど、より実態に合ったセグメントを作成することが重要です。
Google Sheetsでは、R, F, Mのスコアを結合した文字列(例: "545")を新しい列に作成し、その値によって顧客をセグメントに分類できます。IF
関数やIFS
関数、または基準表とVLOOKUP
関数を使用してセグメント名を割り当てます。
=IFS(AND([Rスコア]=5,[Fスコア]=5,[Mスコア]=5), "最優良顧客", AND([Rスコア]>=4,[Fスコア]>=4), "優良顧客", ...)
ステップ5:セグメント別の分析と可視化
顧客がそれぞれのセグメントに分類できたら、次はセグメントごとの特徴を分析し、可視化します。
- セグメントごとの顧客数: 各セグメントに属する顧客数を数えます。
COUNTIF
またはCOUNTIFS
関数、またはピボットテーブルで行にセグメント、値に顧客ID(集計方法: COUNTA)を設定します。 - セグメントごとの売上合計: 各セグメントの顧客による合計売上金額を計算します。元の購買履歴データシートに戻り、セグメント情報を追加した後、
SUMIFS
関数やピボットテーブルで行にセグメント、値に購入金額(集計方法: SUM)を設定します。 - セグメントごとの平均購入単価/頻度など: 必要に応じて他の指標も計算します。
これらの集計結果を基に、棒グラフや円グラフを作成すると、各セグメントのボリュームや売上への貢献度が視覚的に把握しやすくなります。Google Sheetsのグラフ機能は直感的で使いやすいです。
ステップ6:分析結果に基づく施策の検討と実行
RFM分析によって顧客をセグメント分けし、それぞれの特徴を把握したら、その結果を基に具体的な施策を検討・実行します。
- 優良顧客: ロイヤルティを維持・向上させるための特別なサービス、限定情報の提供、サンクスレター送付など。
- 新規優良顧客: リピートを促すためのフォローアップメール、関連商品のレコメンドなど。
- 離反注意顧客/休眠顧客: 再購入を促すための限定的な割引クーポン、アンケートによる意見収集、新商品・サービスのアナウンスなど。
RFM分析は顧客の状態を把握する「診断」であり、その後の「治療」(施策実行)が最も重要です。施策を実行した後は、その効果がR、F、Mのどの指標に影響を与えたか、顧客のセグメントがどのように変化したかを再度分析し、改善サイクルを回していくことが推奨されます。
よくある疑問と注意点
- データの準備: RFM分析には正確な購買履歴データが必要です。顧客IDの重複、購入日や金額の欠損がないか事前に確認し、必要に応じてデータクリーニングを行いましょう。
- スコアリング基準: RFMスコアの基準(閾値)は、ビジネスや扱う商材によって最適値が異なります。一概に「この基準が良い」というものはありません。最初は試行錯誤が必要になる場合もありますが、過去の購買データを分析して分布を見たり、ビジネス目標に合わせて設定したりすることが重要です。
- 分析期間: RFM分析の対象とする期間(例: 過去1年間、過去半年間)も結果に影響します。ビジネスのサイクルに合わせて適切な期間を設定してください。
- RFM分析の限界: RFM分析は過去の行動に基づいた分析であり、顧客の「なぜ購入したのか」「次に何を購入する可能性があるか」といった行動の背景や将来予測までは捉えきれません。他のデータ(デモグラフィックデータ、行動データなど)と組み合わせたり、他の分析手法(セグメンテーション分析、コホート分析など)と併用したりすることで、より深い洞察が得られます。
まとめ
この記事では、無料ツールのGoogle Sheetsを使ってRFM分析を行い、顧客データを活用して優良顧客を見つけ、ビジネスの成果に繋げる方法を解説しました。RFM分析は、R(最新購入日)、F(購入頻度)、M(購入金額)というシンプルな指標に基づきながらも、顧客の状態を的確に捉え、効果的なセグメンテーションを可能にする強力な手法です。
Google Sheetsを使えば、高価なツールや専門知識がなくても、手軽にRFM分析を始めることができます。まずは手元の購買履歴データを使って実際にRFM分析を行ってみてください。各セグメントの顧客リストを作成し、それぞれの顧客層に合わせた具体的な施策を検討・実行することが、データ分析をビジネスに活かす次のステップとなります。
RFM分析で得られた示唆を基に、顧客一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションやサービスを提供することで、顧客満足度を高め、長期的な売上向上に繋げることが期待できます。ぜひ、本記事を参考に、データに基づいた顧客理解を深めてみてください。