Google Sheetsで実践!予実管理と差異分析入門
予実管理と差異分析とは?ビジネス成果の現状を把握する第一歩
ビジネスにおいて、計画と実績を比較し、その違い(差異)を分析することは非常に重要です。このプロセスを「予実管理」と呼び、特に計画と実績の差を明らかにし、その要因を探ることを「差異分析」と言います。
予実管理と差異分析を行うことで、ビジネスは以下のようなメリットを得られます。
- 目標達成度の正確な把握: 計画に対してどれだけ進捗しているか、具体的な数値で確認できます。
- 問題の早期発見: 計画通りに進んでいない部分や、想定外の事態が発生している箇所を素早く特定できます。
- 改善策の検討と実施: 差異の原因を分析することで、次に取るべき行動や改善策を具体的に検討できます。
- 意思決定の精度向上: データに基づいた現状認識は、より効果的な意思決定につながります。
しかし、「専門的なツールが必要なのでは?」「どのように分析すれば良いのか分からない」と感じ、一歩を踏み出せていない方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、普段お使いの表計算ソフトであるGoogle Sheetsを活用し、コストをかけずに予実管理と差異分析を始めるための具体的なステップをご紹介します。
なぜ予実管理・差異分析にGoogle Sheetsが適しているのか
予実管理や差異分析を行うためのツールは数多く存在しますが、データ分析初心者や、コストをかけずに始めたいという方にとって、Google Sheetsは非常に有効な選択肢となります。
メリット:
- 無料かつ手軽に利用可能: Googleアカウントがあれば誰でも無料で利用できます。特別なソフトウェアのインストールも不要で、Webブラウザがあればどこからでもアクセスできます。
- 多くのビジネスパーソンが慣れている: 表計算ソフトの操作に慣れている方が多いため、新しいツールの使い方を学ぶハードルが低いのが特徴です。
- 基本的な計算機能が充実: 差異の計算、比率の算出、合計値や平均値の集計など、予実管理・差異分析に必要な基本的な計算や関数が十分に備わっています。
- 共同編集や共有が容易: チーム内で予実データを共有したり、一緒に分析を進めたりする際に便利です。
デメリット:
- 大規模なデータ分析には不向き: 非常に大量のデータ(数万行、数十万行以上)を扱う場合、動作が重くなったり、処理に時間がかかったりすることがあります。
- 専門的な分析機能には限界: 高度な統計分析や機械学習など、より複雑な分析には向いていません。
- リアルタイム連携には一手間かかる場合がある: 複数のシステムからリアルタイムでデータを連携させるには、GAS(Google Apps Script)などの別途設定が必要になる場合があります。
これらの特性を踏まえると、Google Sheetsは、まずは小~中規模のデータで基本的な予実管理・差異分析を始めたい、チーム内で手軽にデータを共有したい、といった目的に非常に適していると言えます。
Google Sheetsで予実管理・差異分析を始める準備
予実管理・差異分析を行うためには、以下の2種類のデータが必要です。
- 計画値(予算)データ: 設定した目標や計画の数値です。例えば、売上目標、費用予算、生産目標など。
- 実績値データ: 実際に発生した結果の数値です。例えば、実際の売上、実際の費用、実際の生産量など。
これらのデータを、日付や期間、部門、製品、顧客などの軸で整理した形式でGoogle Sheetsに入力します。例えば、以下のようなシンプルな表を作成します。
| 日付 | 部門 | 製品ID | 計画売上 | 実績売上 | | :----- | :------- | :----- | :------- | :------- | | 2023/10/1 | 営業A部 | P001 | 100000 | 95000 | | 2023/10/1 | 営業B部 | P002 | 80000 | 82000 | | ... | ... | ... | ... | ... |
このような形式で、分析したい期間のデータを準備してください。データがすでに他のシステム(会計システム、CRMなど)にある場合は、CSVファイルなどでエクスポートし、Google Sheetsにインポートして利用するのが効率的です。
Google Sheetsでの予実管理・差異分析の具体的な手順
ここでは、上記の準備で作成したデータを使って、具体的な差異分析の手順を見ていきましょう。
ステップ1:差異額の計算
まずは、計画値と実績値の「差額」を計算します。新しい列を作成し、実績値から計画値を差し引く数式を入力します。
例えば、実績売上がE列、計画売上がD列にある場合、F列に「売上差異額」という列を追加し、F2セルに以下の数式を入力します。
=E2-D2
この数式を他の行にもコピーします。F列には、実績が計画を上回っていればプラス、下回っていればマイナスの値が表示されます。
ステップ2:差異率の計算
差異額だけでなく、「差異率」も計算することで、計画値に対する差異の大きさを相対的に評価できます。新しい列を作成し、差異額を計画値で割ってパーセンテージ表示にします。
G列に「売上差異率」という列を追加し、G2セルに以下の数式を入力します。
=IFERROR(F2/D2,"")
IFERROR
関数を使用しているのは、計画値(D2)がゼロの場合にエラー(#DIV/0!)が表示されるのを防ぐためです。計画値がゼロの場合は空欄を表示するようにしています。この数式を他の行にもコピーし、列の表示形式を「パーセント」に設定してください。
これで、各項目や期間ごとの差異額と差異率が算出されました。
ステップ3:合計や平均で全体像を把握する
データ全体、または特定の期間や部門ごとの合計や平均を計算することで、全体の予実状況を把握できます。
- 合計:
SUM
関数を使用します。例えば、期間全体の売上差異額合計は=SUM(F:F)
のように計算できます。 - 平均:
AVERAGE
関数を使用します。例えば、平均売上差異率は=AVERAGE(G:G)
のように計算できます(ただし、平均差異率は単純な平均ではなく、全体合計の差異率を計算する方が望ましい場合が多いです。全体合計の差異率は=(SUM(E:E)-SUM(D:D))/SUM(D:D)
で計算できます)。
また、ピボットテーブル機能を使うと、部門別や製品別、月別などの切り口で、合計売上、合計計画売上、合計差異額、合計差異率などを簡単に集計できます。
- ピボットテーブルの作成:
- データ範囲を選択します。
- メニューの「挿入」>「ピボットテーブル」を選択します。
- 新しいシートまたは既存のシートにピボットテーブルを作成します。
- エディタで、「行」に「部門」や「日付」(グループ化で「月」などに設定)、「列」(任意)に「製品ID」などを設定します。
- 「値」に「計画売上」「実績売上」「売上差異額」「売上差異率」を設定します(「売上差異額」「売上差異率」は、先に元のデータで計算しておく必要があります)。「値」の設定で、集計方法を「合計」などに変更できます。
ピボットテーブルを使うことで、どの部門や製品が予実から大きく乖離しているかなど、多角的な視点から集計結果を確認できます。
ステップ4:条件付き書式で重要な差異を目立たせる
差異が大きい項目や、計画を下回っている項目など、特に注目すべき部分を視覚的に分かりやすくするために、条件付き書式を活用します。
例えば、売上差異率が特定の閾値(例: ±10%)を超えているセルや、差異額がマイナスになっているセルに色を付けることができます。
- 条件付き書式の設定:
- 差異額や差異率の列(例: F列またはG列)を選択します。
- メニューの「表示形式」>「条件付き書式」を選択します。
- 右側に表示されるサイドバーで、書式ルールを設定します。
- 例1: 「次より小さい」を選び、値を「0」として、背景色を赤系に設定(計画を下回る場合)。
- 例2: 「次より大きい」を選び、値を「0.1」(10%)として、背景色を黄色系に設定(計画より10%以上良い場合)。
- 例3: 「範囲外」を選び、値に「-0.1」と「0.1」を設定して、背景色をオレンジ系に設定(計画から±10%以上乖離している場合)。
視覚的に差異の大きい箇所を素早く把握できるようになり、分析の効率が向上します。
ステップ5:グラフでトレンドや比較を「見える化」する
算出した差異データや予実データをグラフにすることで、期間ごとの推移や、部門・製品間の比較などを直感的に理解できるようになります。
- グラフの作成:
- グラフ化したいデータ範囲を選択します(例: 月ごとの計画売上、実績売上、差異額の合計行など)。
- メニューの「挿入」>「グラフ」を選択します。
- 右側に表示されるグラフエディタで、グラフの種類(折れ線グラフ、棒グラフなど)や設定を調整します。
- 折れ線グラフ: 期間ごとの推移を見るのに適しています。計画売上と実績売上を同じグラフに表示し、推移の差を確認できます。
- 集合縦棒グラフ: 部門別や製品別などの項目ごとに、計画値と実績値を比較するのに適しています。
- 積み上げ縦棒グラフ: 計画値と差異額を積み重ねて表示することで、実績が計画に対してどのくらいの比率になっているかを視覚的に示せます。
グラフは予実管理レポートの主要な要素となります。傾向や課題を視覚的に捉え、関係者との共有や説明に役立てることができます。
よくある疑問と注意点
- データの正確性は大丈夫? 予実管理・差異分析の基となるデータが不正確だと、分析結果も意味のないものになってしまいます。元データの入力ミスや定義のブレがないか、定期的に確認することが重要です。
- どの期間で分析すべき? 分析の目的によって期間を設定します。週次、月次、四半期、半期、年次など、ビジネスサイクルや意思決定のタイミングに合わせて適切な期間を選びましょう。
- Google Sheetsの限界は? 大量のデータを扱う場合や、複数の複雑な条件でフィルタリング・集計を行う場合は、処理速度が低下することがあります。また、組織全体で予実管理のワークフローを構築したり、高度な予測モデルを組み込んだりするには、より専門的な予実管理ツールやBIツールが必要になります。
- 差異分析だけでは不十分? 差異を計算するだけでなく、その差異がなぜ生じたのか、その「原因」を深掘りすることが最も重要です。他のデータ(市場データ、競合情報、顧客の声など)と組み合わせたり、現場の関係者からヒアリングを行ったりすることで、より本質的な課題や改善点が見えてきます。
Google Sheetsを使った予実管理・差異分析は、あくまでデータ活用の基本的なステップです。ここでの分析結果を基に、さらに詳細な分析や、データに基づいた具体的な行動計画に繋げていくことが求められます。
まとめ:Google Sheetsで始める予実管理・差異分析
この記事では、無料ツールのGoogle Sheetsを使って、ビジネスの計画と実績を比較する予実管理・差異分析の基本的な手法をご紹介しました。
具体的なステップとして、
- 計画値と実績値のデータ準備
- 差異額と差異率の計算
- SUMやピボットテーブルによる集計
- 条件付き書式による差異の可視化
- グラフによるトレンドや比較の把握
を解説しました。
これらの手順を実践することで、自社のビジネスが計画通りに進んでいるか、どの部分で課題が発生しているかなどを具体的な数値で把握し、「なぜ」その差異が生じたのかを深掘りするための手がかりを得ることができます。
Google Sheetsは、データ分析の専門家でなくても、普段の業務で表計算ソフトを使っている方であればすぐに取り組めるツールです。まずは自社の小さなデータからでも構いませんので、予実管理と差異分析を実践してみてください。データに基づいた現状把握は、ビジネスの改善に向けた確実な一歩となるはずです。
さらに分析を進める際には、Google Sheetsの機能をさらに使いこなしたり、Looker Studioのような無料のBIツールと連携させてより高度なダッシュボードを作成したりすることも検討できます。データ活用の旅はここから始まります。