無料のGoogle My Mapsで顧客や店舗の分布を「見える化」:地図で理解する地理情報分析入門
データ分析に関心をお持ちの皆様、こんにちは。
ビジネスにおけるデータ活用は、ますます重要になっています。中でも、「場所」に関するデータは、マーケティング戦略、販売計画、物流効率化など、多岐にわたる意思決定に役立ちます。例えば、「顧客がどのエリアに集中しているのか」「競合店舗はどこにあるのか」「最適な配送ルートは何か」といった疑問に答えるために、位置情報の分析は欠かせません。
しかし、専門的な地理情報システム(GIS)は高価であり、習得にも時間がかかるため、導入のハードルが高いと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、無料で利用できるGoogle My Mapsというツールを使って、地理的なデータを地図上に「見える化」し、ビジネスに役立つ洞察を得るための基本的な手順と活用法をご紹介します。プログラミングの知識は不要で、表計算ソフトの基本操作ができればすぐに始められます。この記事を通して、地理情報分析の第一歩を踏み出し、業務改善に繋げるヒントを得られることを目指します。
Google My Mapsとは
Google My Mapsは、Googleが提供する無料のオンラインツールです。このツールを使うと、自分だけのカスタマイズされた地図を作成し、特定の場所(地点やエリア)に印をつけたり、線や図形を描き加えたりすることができます。特に、スプレッドシートなどのデータから住所情報を読み込んで、地図上に自動で表示させる機能が強力です。
なぜGoogle My Mapsが地理情報分析に役立つのか
- 無料かつ手軽: 追加費用なしで利用でき、特別なソフトウェアのインストールも不要です。Webブラウザがあればすぐにアクセスできます。
- 直感的な操作: 地図上での操作が中心で、専門知識がなくても比較的簡単に使い始められます。
- データ連携: Google Sheetsなどの表計算ソフトにある住所や地名データから、簡単に地図上にマーカーをプロットできます。
- 多様な表現力: マーカーの色やアイコンを変えたり、エリアを色分けしたりすることで、データの特性を視覚的に表現できます。
- 共有・共同編集: 作成した地図をチーム内で共有したり、一緒に編集したりすることも可能です。
メリット・デメリット
- メリット:
- 無料・手軽に始められる
- 直感的な操作で地図上にデータをプロットできる
- Google Sheetsとの連携が容易
- 視覚的に分かりやすい地図を作成できる
- デメリット:
- 扱えるデータ量に上限がある(詳細な制限は変更される場合がありますが、大規模なデータセットには不向きです)
- 高度な地理空間分析機能(例えば、バッファー分析、ネットワーク分析、統計分析など)は利用できない
- オフラインでの利用は基本的に不可
Google My Mapsを使った地理情報分析の基本ステップ
ここでは、Google Sheetsにある顧客の住所データをGoogle My Mapsで地図上に表示し、「顧客がどのエリアに集まっているか」を把握する手順を例に解説します。
ステップ1:分析したいデータを準備する(Google Sheets)
まず、分析したい位置情報を含むデータを用意します。ここでは、顧客リストを想定したGoogle Sheetsのデータを使用します。
最低限必要な情報:
- 位置情報を示す列: 住所(例: 東京都千代田区〇〇1-2-3)、地名(例: 新宿)、郵便番号、あるいは緯度・経度情報。住所や地名が最も一般的で、Google My Mapsが位置を特定しやすい形式です。
- 分析に利用したい情報(任意): 売上金額、顧客ランク、購入商品カテゴリなど、位置情報と関連付けて表示・分析したいデータ。
データの準備のポイント:
- 住所の統一性: 可能な限り正確で統一された形式で住所を記述してください。「東京都千代田区〇〇1-2-3」のように、都道府県から番地までを含めるのが理想です。「千代田区〇〇」だけでは正確な位置を特定できない場合があります。
- 列名の指定: 位置情報を含む列には「住所」「所在地」など、内容が分かりやすい列名を付けてください。Google My Mapsが読み込む際に、どの列を位置情報として使うかを指定しやすくなります。
例:顧客リストのデータ(Google Sheets)
| 顧客ID | 氏名 | 住所 | 売上金額 | 顧客ランク | | :----- | :----- | :------------------- | :------- | :--------- | | 001 | 田中一郎 | 東京都千代田区丸の内1-1-1 | 50,000 | Gold | | 002 | 佐藤花子 | 東京都中央区銀座4-6-16 | 30,000 | Silver | | 003 | 山田太郎 | 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1 | 80,000 | Gold | | ... | ... | ... | ... | ... |
ステップ2:Google My Mapsで新しい地図を作成する
- Google My Mapsのウェブサイト(
https://www.google.com/maps/d/
)にアクセスします。 - Googleアカウントでログインします。
- 「新しい地図を作成」をクリックします。
ステップ3:データをインポートする
- 作成された無題の地図に「レイヤ」が表示されます。「インポート」をクリックします。
- データをインポートする方法を選択します。「Googleドライブ」または「デバイスからファイルを選択」を選び、ステップ1で準備したGoogle Sheetsファイル(またはCSV、Excelファイルなども利用可能ですが、Google Sheetsが推奨です)を選択します。
- ファイルを選択すると、どの列を「プレースマークを配置する位置情報の指定」に使用するかを選択する画面が表示されます。ステップ1で用意した「住所」や「所在地」といった列を選択します。複数の列を組み合わせることも可能です(例: 「住所」「市区町村」「都道府県」)。
- 次に、「プレースマークのタイトルの指定」に使用する列を選択します。地図上の各マーカーに表示される名称になります。「氏名」や「顧客ID」など、識別しやすい列を選択すると良いでしょう。
- 「完了」をクリックします。
Google My Mapsが自動的に各住所をジオコーディング(住所を緯度経度情報に変換する処理)し、地図上にプレースマーク(ピン)をプロットします。データ量が多い場合や住所が不正確な場合、処理に時間がかかったり、一部のデータが正確にプロットされなかったりすることがあります。
ステップ4:地図をカスタマイズしてデータを「見える化」する
データが地図上にプロットされたら、より分かりやすくするためにカスタマイズします。
- レイヤ名の変更: インポートしたレイヤの名前を、例えば「顧客分布(全体)」など、分かりやすい名前に変更します。
- 一括スタイルの設定: デフォルトでは均一なマーカーで表示されます。インポートしたレイヤの「個別スタイル」をクリックし、「データ列でスタイル設定」を選択します。
- 色の設定: 例えば「売上金額」の列を選択し、「連続的な色」でスタイリングすると、売上金額が高い顧客ほど濃い色で表示されるように設定できます。
- カテゴリでの色分け: 例えば「顧客ランク」の列を選択し、「項目別のスタイル」で設定すると、「Gold」「Silver」といったランクごとにマーカーの色やアイコンを変えることができます。これにより、特定の顧客セグメントがどのエリアに集まっているかを視覚的に把握できます。
- マーカー情報の編集: 各マーカーをクリックすると、インポートしたデータの詳細(氏名、売上金額など)が表示されます。鉛筆アイコンをクリックして情報を編集したり、写真や動画を追加したりすることも可能です。
- レイヤの追加: 別のデータセット(例: 競合店舗の所在地リスト、自社店舗の所在地リストなど)をインポートしたい場合は、「レイヤを追加」をクリックして新しいレイヤとして追加できます。異なるレイヤに分けることで、顧客と店舗、顧客と競合といった関係性を重ねて表示・比較できます。
- 線や図形の描画: 「線または図形を描画」ツールを使って、特定のエリアを囲んだり、配送ルートを描いたりすることも可能です。これにより、商圏を定義したり、移動経路を視覚化したりできます。
ステップ5:地図から地理的な傾向や課題を読み取る
作成した地図を眺めることで、データシートだけでは気づきにくい地理的なパターンや傾向を発見できます。
分析例:
- 顧客分布の偏り: 特定のエリアに顧客が集中している、あるいは逆に少ないエリアがあることが視覚的に分かります。
- 顧客セグメントの地域差: 高額顧客が特定のエリアに集中している、あるいは特定のランクの顧客が分散しているといった傾向を把握できます。
- 店舗と顧客の関係: 自社店舗から遠いエリアに高額顧客が多い場合、出店候補地の検討に繋がるかもしれません。逆に、特定の店舗の近くに顧客が少ない場合、その店舗の集客施策を見直す必要があるかもしれません。
- 競合との位置関係: 競合店舗の近くに自社顧客が多いのか少ないのかを確認し、戦略立案に活かせます。
ステップ6:分析結果を共有・活用する
作成した地図は、Googleアカウントを持つ他のユーザーと共有できます。「共有」ボタンをクリックし、閲覧権限や編集権限を設定して共有リンクを生成したり、特定のメールアドレスに招待を送ったりできます。会議での報告資料として活用したり、チームメンバーと共同で分析を進めたりするのに役立ちます。
具体的な活用例
- マーケティング:
- 特定のエリアをターゲットにした広告キャンペーンの企画(顧客が集中するエリア、あるいは新規開拓したいエリアの特定)
- 折込チラシ配布エリアの最適化
- イベント開催地の検討
- 販売:
- 新規出店候補地の絞り込み(既存顧客や競合の位置を考慮)
- 担当営業エリアの見直し
- 物流・配送:
- 効率的な配送ルートの検討
- 拠点配置の最適化
よくある疑問や注意点
- 住所が正確にプロットされない場合: 住所の表記揺れや番地の誤りなどが原因で、正確な位置が特定できないことがあります。可能な限り正確な住所データを使用し、必要に応じて手動で位置を修正してください。また、郵便番号や市区町村名だけでもプロットは可能ですが、精度は下がります。
- データ量の上限: 多数のデータを扱う場合は、Google My Mapsの無料版には制限があることを理解しておきましょう。より大規模な分析が必要な場合は、専門的なGISツールや、Google BigQuery + Google Data Studio (Looker Studio) などの組み合わせを検討する必要があります。
- プライバシー: 顧客データなどを扱う際は、個人情報保護に十分配慮し、適切な権限設定や管理体制のもとで作業を行ってください。
まとめ
この記事では、無料のGoogle My Mapsを使って、位置情報を含むデータを地図上に表示し、地理的な視点からビジネス課題解決のヒントを得る方法をご紹介しました。Google My Mapsは、専門知識がなくても直感的に操作でき、Google Sheetsとの連携も容易なため、データ分析の初心者にとって非常にアクセスしやすいツールです。
顧客や店舗、その他様々な位置に関するデータを地図上に「見える化」することで、データシートを眺めるだけでは気づけなかった地理的な傾向やパターンを発見できる可能性があります。例えば、特定のエリアへの集客強化、出店戦略の検討、配送ルートの効率化など、地理的な視点からの分析は多くの業務分野で役立ちます。
まずは手元にある住所データ(例えば、顧客リストの一部や取引先の所在地リストなど)を使って、Google My Mapsで地図を作成してみることから始めてみてください。無料ツールを活用して、データに基づいた意思決定の一歩を踏み出しましょう。
より高度な地理情報分析や、大量データの扱いに興味が出てきたら、有料のGISツールや、Google Cloud Platformが提供するサービス(BigQuery GISなど)、オープンソースのGISソフトウェア(QGISなど)についても調べてみると良いでしょう。