売上アップに繋げる!無料ColabとPythonで実践するデータ結合分析入門
データ分析に関心をお持ちの皆様、こんにちは。ウェブサイト「無料ツールで始めるデータ分析」の専門ライターです。
データ分析を進める上で、「顧客リスト」「購買履歴」「Webサイトの行動ログ」「広告施策の効果データ」など、様々な場所にデータが散らばっていて、それらをまとめて分析したいと感じることはないでしょうか。単一のデータソースだけでは見えなかった新たな発見は、複数のデータを組み合わせることで得られることが少なくありません。
しかし、こうした異なる形式や場所にあるデータを一つにまとめて分析するには、専門的なツールや知識が必要だと思われがちです。高価なデータベースソフトや分析プラットフォームを導入するのは難しいという方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、無料で利用できるGoogle Colaboratory(Google Colab)とPythonというプログラミング言語、そしてデータ分析に特化したライブラリであるPandasを使って、複数のデータを結合し、ビジネスに役立つ分析を行うための基本的なステップを解説します。プログラミング経験が少ない方でも始めやすいように、具体的な手順とコード例を交えながらご紹介します。
データ結合分析とは何か、なぜビジネスに役立つのか
データ結合分析とは、異なるデータソースから取得した複数のデータセットを、共通するキー(例えば顧客IDや商品コードなど)を基に連結・統合し、それによってできた一つの大きなデータセットを使って分析を行う手法です。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 顧客データと購買データを結合: 顧客の属性情報(年齢層、居住地域など)と購買履歴(購入頻度、購入金額、購入商品など)を結合することで、「特定の年齢層の顧客がよく購入する商品」や「高額購入者はどの地域の顧客か」といった分析が可能になり、ターゲット顧客への効果的なアプローチを検討できます。
- Webサイトの行動データとコンバージョンデータを結合: Webサイト上のユーザーの行動ログ(どのページを見たか、どれくらいの時間滞在したか)と、最終的な目標達成(商品の購入、問い合わせなど)のデータを結合することで、「コンバージョンに繋がりやすいユーザー行動パターン」を特定し、サイト改善に役立てることができます。
- 広告データと売上データを結合: どの広告媒体からの流入が、実際の売上に最も貢献しているのかを分析し、広告予算の最適化を図ることができます。
このように、データを結合することで、単独のデータからは得られない多角的な視点での分析が可能になり、より深い洞察や正確な意思決定に繋げることができるのです。
なぜGoogle ColabとPython(Pandas)なのか
データ結合や複雑なデータ処理を行うには、表計算ソフトだけでは限界がある場合があります。特に、データ量が多かったり、複数のファイルを自動的に処理したい場合などです。そこで役立つのがプログラミング言語ですが、環境構築の手間や専門的な知識がハードルとなりがちです。
Google Colaboratory(Google Colab)は、Googleが提供するブラウザ上でPythonコードを実行できるサービスです。特別なインストールや環境設定が不要で、Googleアカウントさえあればすぐに始められます。データ分析に必要な主要なライブラリ(Pandas, NumPy, Matplotlibなど)も標準で利用できるため、コストをかけずにデータ分析環境を手に入れることができます。
Pythonは、シンプルで読みやすい文法が特徴で、初心者にも扱いやすいプログラミング言語です。データ分析分野で非常に広く利用されており、豊富なライブラリが存在します。
そして、PandasはPythonのデータ分析用ライブラリのデファクトスタンダード(事実上の標準)です。Excelのシートやデータベースのテーブルのような「データフレーム」という形式でデータを扱い、データの読み込み、加工、結合、集計、整形といった一連の作業を効率的に行うための強力な機能を提供しています。
つまり、Google ColabとPython(Pandas)を組み合わせることで、無料かつ環境構築不要で、データ量が多くても柔軟に、そして複雑なデータ結合や処理も可能になるのです。
データ結合の基本的なステップ(Google Colab + Pandas)
ここでは、例として「顧客リスト」と「購買履歴」という2つのデータファイル(CSV形式を想定)を結合する手順をご紹介します。
準備:Google Colabの起動
- Googleアカウントにログインします。
- Google Colabのウェブサイトにアクセスします(
https://colab.research.google.com/
)。 - 「新しいノートブック」を作成します。これが、Pythonコードを書いて実行する場所になります。
ステップ 1: 必要なライブラリのインポート
データ分析には、Pandasライブラリを使用します。Colabではデフォルトでインストールされているので、以下のコードでインポートします。
import pandas as pd
上記のコードをColabのセルに入力し、実行(Shift + Enter またはセルの左にある実行ボタンをクリック)します。「import pandas as pd
」は、「Pandasライブラリを使いますよ。これからコードの中でPandasのことをpd
と短く呼びますね。」という意味です。
ステップ 2: データをColabに読み込む
分析したいデータファイル(例: customers.csv
, purchases.csv
)をColabに読み込みます。方法はいくつかありますが、ここでは簡単なファイルのアップロード方法を使います。
- Colab画面の左側にあるフォルダアイコンをクリックします。
- 表示されたファイルパネルの「アップロード」アイコン(矢印が上向きのフォルダアイコン)をクリックします。
- PCに保存してあるCSVファイルを選択してアップロードします。ファイルはColabのセッションが終了すると消えるため、一時的な利用に適しています。永続的に利用したい場合は、Google Driveとの連携機能を利用することも可能です。
ファイルがアップロードされたら、Pandasを使ってデータを読み込みます。
# 顧客リストデータを読み込む
df_customers = pd.read_csv('customers.csv')
# 購買履歴データを読み込む
df_purchases = pd.read_csv('purchases.csv')
「pd.read_csv('ファイル名')
」は、指定したCSVファイルを読み込んで、Pandasのデータフレームという形式に変換する関数です。読み込んだデータはdf_customers
やdf_purchases
という変数に格納されます。データフレームは、行と列を持つ表形式のデータ構造で、Excelシートのようなイメージです。
ステップ 3: データの確認
データを正しく読み込めたか、どのようなデータが含まれているかを確認することは重要です。
# 顧客リストデータの先頭5行を表示
print("顧客リストデータ:")
print(df_customers.head())
# 購買履歴データの列情報とデータ型を表示
print("\n購買履歴データ情報:")
print(df_purchases.info())
# 顧客リストデータの統計情報を表示
print("\n顧客リストデータ統計情報:")
print(df_customers.describe())
head()
: データフレームの最初の数行(デフォルトは5行)を表示し、データの構造や含まれるデータの一部を確認できます。info()
: 各列の名前、非欠損値の数、データ型などを表示します。データに欠損値がないか、数値データが正しく数値型として認識されているかなどを確認できます。describe()
: 数値型の列の基本的な統計情報(平均値、標準偏差、最小値、最大値、四分位数など)を表示します。データの分布を把握するのに役立ちます。
ステップ 4: データ結合の実行
いよいよデータ結合です。Pandasのmerge
関数を使用します。データ結合にはいくつかの種類がありますが、今回は最もよく使われる「内部結合(inner join)」を行います。これは、2つのデータフレームの「結合キー」の両方に存在する行だけを結合する方法です。
例として、df_customers
とdf_purchases
の両方にCustomerID
という共通の列(顧客を識別するためのID)があるとし、これを結合キーとします。
# 顧客リストデータと購買履歴データをCustomerIDをキーに内部結合する
merged_df = pd.merge(df_customers, df_purchases, on='CustomerID', how='inner')
# 結合後のデータの先頭5行を表示して確認
print("\n結合後のデータ:")
print(merged_df.head())
pd.merge(df1, df2, on='キーとなる列名', how='結合方法')
:df1
とdf2
という2つのデータフレームを結合します。on='CustomerID'
:CustomerID
という列を共通のキーとして使用することを指定します。もしキーとなる列名がデータフレームごとに異なる場合は、left_on='df1のキー名', right_on='df2のキー名'
のように指定します。how='inner'
:結合方法として内部結合を指定しています。他に'left'
(左外部結合)、'right'
(右外部結合)、'outer'
(完全外部結合)などがありますが、ここでは両方に存在する顧客の購買履歴だけを分析対象とするため内部結合を使用しました。
実行すると、merged_df
という新しいデータフレームが作成され、顧客情報と購買情報がCustomerID
をキーとして結合されたデータを確認できます。
ステップ 5: 結合後のデータを使った分析例
結合したデータフレームmerged_df
を使えば、様々な分析が可能になります。ここでは例として、「顧客ごとの合計購入金額」を計算してみます。
# 結合後のデータを使って、顧客IDごとに合計購入金額を計算する
customer_purchase_summary = merged_df.groupby('CustomerID')['PurchaseAmount'].sum().reset_index()
# 結果を表示
print("\n顧客ごとの合計購入金額:")
print(customer_purchase_summary.head())
merged_df.groupby('CustomerID')
:データフレームをCustomerID
列の値でグループ分けします。['PurchaseAmount'].sum()
:グループごとにPurchaseAmount
列の合計値を計算します。.reset_index()
:グループ分けに使ったCustomerID
を通常の列に戻します。
これにより、「どの顧客がどれだけの金額を購入したか」という集計結果が得られます。さらに、この集計結果と元の顧客データを再度結合したり、顧客属性で絞り込んで比較したりするなど、分析を深めることができます。
ステップ 6: 結合したデータの保存
結合・加工したデータを後で再利用したり、他のツールで分析したりするために、ファイルとして保存することができます。CSV形式で保存する場合のコード例です。
# 結合後のデータをCSVファイルとして保存
merged_df.to_csv('merged_data.csv', index=False)
# 集計結果をCSVファイルとして保存
customer_purchase_summary.to_csv('customer_purchase_summary.csv', index=False)
to_csv('ファイル名', index=False)
:データフレームを指定したファイル名でCSV形式で保存します。index=False
を指定することで、データフレームの行インデックス(自動的に割り当てられる番号)をファイルに書き込まないようにします。
Colabのファイルパネルを確認すると、指定したファイル名でCSVファイルが作成されているはずです。このファイルを右クリックしてダウンロードすれば、PCに保存できます。
よくある疑問や注意点
- 結合キーがない場合: 結合したいデータ間に共通のキーとなる列がない場合は、直接的な結合は難しいです。分析の目的に応じて、何らかの方法でキーを作成するか、別の分析手法を検討する必要があります。
- キーのデータ型や表記ゆれ: 結合キーとする列のデータ型(数値型、文字列型など)は、結合する両方のデータで一致している必要があります。また、「株式会社」が「(株)」となっていたり、スペースが入っていたりする「表記ゆれ」があると、正しく結合できません。事前にデータクリーニングが必要です。これにはPandasの文字列処理機能などが役立ちます。
- 結合方法の選択: 内部結合、左外部結合、右外部結合、完全外部結合など、結合方法によって結果の行数が変わります。分析の目的に合わせて適切な結合方法を選択することが重要です。例えば、顧客リストに載っている全ての顧客(購買履歴がない顧客も含む)を分析対象にしたい場合は、顧客リストを基準とした左外部結合を使用します。
- 大量データの処理: 数十万行、数百万行といった大量のデータを扱う場合、処理に時間がかかることがあります。Colabには無料枠での計算資源の制限があるため、あまりに巨大なデータの場合はクラウドの有料サービスなどを検討する必要が出てくる場合もあります。しかし、通常の業務で扱う程度のデータ量であれば、無料で十分対応できるケースが多いです。
まとめ
この記事では、Google ColabとPython(Pandas)という無料ツールを活用して、複数のデータを結合し、ビジネス分析に役立てるための基本的な手順をご紹介しました。データ結合は、単一のデータだけでは見えなかった新たな発見や、より多角的な分析を可能にする強力な手法です。
高価な分析ツールや専門的な環境がなくても、Google ColabとPythonを使えば、すぐにデータ統合・分析の第一歩を踏み出すことができます。ご紹介した手順はあくまで基本ですが、これを応用することで、ご自身の業務で抱える様々なデータを組み合わせ、課題解決や意思決定のためのインサイトを得ることが可能になります。
データ結合によって統合されたデータは、さらに集計・可視化することで、より分かりやすく共有可能な情報となります。この記事で作成した結合済みデータを、無料のGoogle Looker StudioやTableau Publicに取り込んでビジュアル化するなど、他の無料ツールと組み合わせて活用することも有効です。
まずは少量のデータで試してみて、データ結合の感覚を掴んでいただければ幸いです。データ活用の可能性を広げるための一助となれば嬉しいです。