回答データを活かす!Google FormsとSheetsで始めるアンケート分析
データに基づいた意思決定は、ビジネスにおいてますます重要になっています。特に、顧客やユーザーの声に耳を傾け、サービスや製品の改善に繋げるためのアンケート調査は多くの企業で行われています。しかし、アンケートで得られた回答データをどのように集計・分析すれば良いのか、高価なツールが必要なのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、追加コストをかけずに今すぐに始められる、Google FormsとGoogle Sheetsを組み合わせたアンケートデータ分析の基本ステップを解説します。プログラミングや複雑な統計知識は不要です。表計算ソフトの操作に慣れている方であれば、アンケート調査の企画から回答データの分析までを一貫して行うことができるようになります。
アンケートデータ分析の意義と無料ツール活用のメリット
アンケートデータ分析は、収集した回答を集計・分析することで、回答者の傾向や意見、ニーズなどを把握するプロセスです。これにより、顧客満足度の測定、製品・サービスの改善点の特定、マーケティング施策の評価など、様々な目的に役立てることができます。
Google FormsとGoogle Sheetsは、個人だけでなくビジネス利用においても無料で利用できる強力なツールです。 * Google Forms: アンケートフォームの作成、配布、回答収集を簡単に行えます。様々な質問形式に対応しており、手軽にアンケートを実施できます。 * Google Sheets: 表計算ソフトとして、データの集計、加工、分析、グラフ化を行うことができます。Webブラウザ上で動作するため、特別なソフトウェアのインストールは不要です。
これらのツールを組み合わせる最大のメリットは、コストをかけずにアンケート調査の全工程を行える点です。また、Webブラウザ上で作業が完結するため、環境構築の手間がなく、すぐに始められます。一方で、非常に大規模なデータや複雑な統計分析には限界がある点、オフラインでの作業には制限がある点は理解しておく必要があります。しかし、多くの日常的なアンケート分析においては十分な機能を提供しています。
Google Formsでのアンケート作成と回答収集
まずはGoogle Formsでアンケートを作成します。
- Google Formsのウェブサイトにアクセスし、新しいフォームを作成します。
- フォームのタイトルと説明を設定します。
- 質問を追加します。テキスト形式、選択肢形式(単一選択、複数選択)、プルダウン、線形スケールなど、目的に合わせた質問形式を選択します。
- 各質問に必須回答などの設定を行います。
- 必要に応じてテーマや設定(回答の編集可否、回答の上限など)を調整します。
- フォームが完成したら、「送信」ボタンからリンクを取得し、回答者に共有します。
回答が収集されると、Google Formsの「回答」タブで概要を確認できます。
Google Sheetsへの回答データ連携
収集した回答データを分析するために、Google Sheetsに連携します。
- Google Formsの「回答」タブを開きます。
- スプレッドシートアイコン(緑色のアイコン)をクリックします。
- 「新しいスプレッドシートを作成」を選択するか、既存のスプレッドシートに連携するかを選び、「作成」をクリックします。
これで、アンケートの回答がリアルタイムに新しいGoogle Sheetsに自動的に記録されるようになります。スプレッドシートには、タイムスタンプ、各質問への回答が列として格納されます。
Google Sheetsでのデータ準備
連携されたデータは、そのまま分析に使える場合も多いですが、必要に応じて準備を行います。
- データの確認: 回答が意図通りに記録されているかを確認します。
- 不要な列の削除/非表示: 分析に使用しないタイムスタンプ列などを非表示にすると、作業しやすくなります。
- 回答の正規化(必要な場合): 例えば、自由記述式の質問で同じ意味でも表記ゆれがある場合(例:「良い」「良かった」)、集計のために表記を統一するといった作業が必要になることがあります。これは手作業で行うか、後述の関数などを工夫して対応します。
Google Sheetsでの基本分析手法
データ準備ができたら、Google Sheetsの関数や機能を活用して分析を行います。ここでは代表的な手法を紹介します。
1. 度数集計(選択肢形式の集計)
選択肢形式の質問(単一選択、複数選択、プルダウンなど)に対して、各選択肢がいくつ選ばれたかを数える最も基本的な集計です。
- 関数:
COUNTIF
またはCOUNTIFS
関数を使用します。
例えば、A列に「はい/いいえ」の回答があり、「はい」の数を数えたい場合:
=COUNTIF(A:A, "はい")
複数の条件で集計したい場合はCOUNTIFS
を使用します。
2. クロス集計(複数項目を掛け合わせた集計)
2つ以上の質問項目を組み合わせて集計することで、回答間の関連性を調べます。例えば、「性別」と「製品満足度」を掛け合わせて、性別ごとの満足度の違いを見る場合などです。
- 関数:
COUNTIFS
関数や、より高度な集計にはQUERY
関数が強力です。 - ピボットテーブル: Google Sheetsのメニューから「挿入」>「ピボットテーブル」を選択すると、GUI操作で簡単にクロス集計表を作成できます。行、列、値に設定したい項目を選ぶだけで、自動的に集計してくれます。初心者の方にはピボットテーブルが最もおすすめです。
3. 平均値や合計値の算出
数値で回答を得る質問(例:満足度を5段階で評価)に対して、平均値や合計値を算出します。
- 関数:
AVERAGE
,SUM
,AVERAGEIF
,SUMIF
関数などを使用します。
例えば、B列に5段階評価の満足度が入っていて、その平均値を計算したい場合:
=AVERAGE(B:B)
特定の条件を満たす回答のみの平均値を計算したい場合はAVERAGEIF
を使用します。
4. グラフによる可視化
集計結果や算出された値をグラフにすることで、データの傾向や特徴を視覚的に分かりやすく表現できます。
- 集計した表や、元のデータの中からグラフ化したい範囲を選択します。
- 「挿入」メニューから「グラフ」を選択します。
- データの種類(棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフなど)や、グラフのタイトル、軸ラベルなどを設定します。
例えば、度数集計した結果を選択して円グラフを作成すれば、各選択肢の比率が一目で分かります。時系列のデータを収集していれば、折れ線グラフで推移を確認できます。
具体的な分析例:顧客満足度調査
あなたがマーケターで、最近リリースした製品の顧客満足度を把握するためのアンケートを実施したとします。アンケート項目には、製品の総合的な満足度(5段階)、特定の機能に関する満足度(5段階)、購入経路(選択肢)、年齢層(選択肢)、改善点(自由記述)などが含まれています。
- Google Formsでアンケート作成・配布
- Google Sheetsに回答を連携
- 基本集計:
- 全体の総合満足度の平均値、各段階の回答数(AVERAGE関数, COUNTIF関数)。
- 特定の機能に関する満足度の平均値。
- クロス集計:
- 購入経路別の総合満足度(ピボットテーブル)。特定の購入経路からの顧客の満足度が低いか、高いかを確認。
- 年齢層別の総合満足度(ピボットテーブル)。特定の年齢層で満足度に偏りがないかを確認。
- グラフ化:
- 総合満足度の分布を棒グラフまたは円グラフで表示。
- 購入経路別の満足度を比較する棒グラフを作成。
- 自由記述の分析:
- 「改善点」のような自由記述の回答は、Sheets上で1つずつ目を通すか、関連するキーワードやカテゴリごとに手動で分類・集計します。例えば、「使いやすさ」「価格」「機能」といったカテゴリに分類し、それぞれのカテゴリに属する回答数を数えるといった作業を行います。量が多ければ大変ですが、重要な示唆が得られる部分です。
これらの分析を通じて、「〇〇の購入経路から来た顧客の満足度が他の顧客より低い」「△△の機能について改善を求める声が多い」といった具体的な課題や傾向を特定し、製品改善やマーケティング施策の立案に役立てることができます。
よくある疑問や注意点
- 自由記述の分析: Google Sheetsだけでは、大量の自由記述を自動的に分類・分析するのは困難です。手作業での分類・集計が基本となります。より高度な分析には、後述するような他の無料ツールとの連携も検討できます。
- 回答バイアス: アンケートの回答者は特定の属性に偏ることがあります。回答率や回答者の属性を確認し、結果の解釈に注意が必要です。
- 統計的な検定: Google Sheetsの標準機能だけでは、回答間の差が統計的に有意であるかといった検定は難しいです。より厳密な分析が必要な場合は、統計ソフトウェア(無料のRなど)の利用を検討することになります。
- データの容量: 非常に大規模な回答データの場合、Google Sheetsの処理能力に限界が生じる可能性があります。
結論
この記事では、Google FormsとGoogle Sheetsという身近な無料ツールを活用して、アンケートデータの収集から基本的な集計・分析、そしてグラフ化までを行う方法を解説しました。これらのツールだけでも、度数集計、クロス集計、平均値算出といった基本的な分析を十分に行うことができ、データに基づいた意思決定や改善活動の第一歩を踏み出すことが可能です。
アンケートデータ分析で得られた示唆は、製品・サービスの改善、顧客体験の向上、効果的なマーケティング戦略の立案など、様々な業務に活かすことができます。
まずは、少人数のユーザーや顧客を対象とした小規模なアンケートから始めてみてください。実際に手を動かし、データを集計・分析する経験を積むことで、データの活用方法が見えてくるはずです。さらに高度な分析や、大量の自由記述データ分析に挑戦したくなった際には、Google ColabやRといった他の無料ツールや手法を学ぶことで、分析の幅を広げることができます。